2022年11月9日水曜日

唯一の人(我が師に寄せる)

唯一の人(我が師に寄せる)

 

 

彼が、輝く奇跡の中で見、涙ぐましく慕い、恍惚の中で引き寄せられたものは、

人々が言うところの「神」ではなかった。

それは神よりも広大にして実体なき夢のまた夢、その裏の裏、

もう他のどんな名前でも呼ぶことのできぬほどに無限の、

懐かしき謎の包容力。

彼は、人々の期待に反し、その存在を「神」とは呼ばなかったばっかりに、

この俗社会の中にいて孤独なる流転の旅を余儀なくされた。

事実、彼が他の誰よりも神に近いところにいたことなど、

人には知る由もなかった。



0 件のコメント:

コメントを投稿