2023年10月8日日曜日

宿命の詩女神(ミューズ)

宿命の詩女神(ミューズ)

 

 

偶然、

吉行が彼の娼婦小説の中に描いた女たちにも似た、

若き日に出会った、

暗い翳をもつ二人の女が、

私の長年の、

宿命の詩女神(ミューズ)だった、

 

私は二人の身体に一度だって触れたことはなかった、

それゆえ、

二人への想いは何重にも層を成していった、

若き日に彼女たちに出会ったことにも、

きっと何らかの意味があった、

悲しさは二人が生活した町の風景に溶け合って、

私の胸を締めつけた、

 

恋は幻惑と憔悴に導かれ、

詩の中に実を結ぶまでには長い年月を経た、

 

今はもう、

二人がそれぞれどこでどんな暮らしをしているのか、

知る由もない、

そして、

きっともう二度と二人の姿を見ることもないだろう、

 

人はあの二度の恋をどちらも愛未満と呼ぶかもしれない、

それでも、

私には教えられたことが数多くあった、

 

また秋が来ると、

滋味な涼しさの中に心に沁み込むような寂しさを想い、

私は遠き日に恋焦がれた、

彼女たちへの追憶に浸る。



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