宿命の詩女神(ミューズ)
偶然、
吉行が彼の娼婦小説の中に描いた女たちにも似た、
若き日に出会った、
暗い翳をもつ二人の女が、
私の長年の、
宿命の詩女神(ミューズ)だった、
私は二人の身体に一度だって触れたことはなかった、
それゆえ、
二人への想いは何重にも層を成していった、
若き日に彼女たちに出会ったことにも、
きっと何らかの意味があった、
悲しさは二人が生活した町の風景に溶け合って、
私の胸を締めつけた、
恋は幻惑と憔悴に導かれ、
詩の中に実を結ぶまでには長い年月を経た、
今はもう、
二人がそれぞれどこでどんな暮らしをしているのか、
知る由もない、
そして、
きっともう二度と二人の姿を見ることもないだろう、
人はあの二度の恋をどちらも愛未満と呼ぶかもしれない、
それでも、
私には教えられたことが数多くあった、
また秋が来ると、
滋味な涼しさの中に心に沁み込むような寂しさを想い、
私は遠き日に恋焦がれた、
彼女たちへの追憶に浸る。
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