絵描き時代のエッセンス
私はかつて売れない絵描きだった。
絵を愛し、
絵を描くことに日々できるだけエネルギーと時間を注ぎたくて、
それでギリギリ食べていける最低限だけしかお金を稼がず、
いつも極貧の中での画業だった。
それからしばらくして、
絵が売れ始めたというわけではないのだが、
ちょっとした意外な運が巡ってきて、
いくらか金銭的に余裕ができた。
しかし、
そうなってから描いた絵には、
もはや貧乏苦闘時代の絵がもつ八方破れな美しさや刺激、危うい魅力、奇跡のバランスは存在せず、
炭酸の抜けたソーダのようなものになってしまっていた。
魂を欠いたヌケガラのような絵とでも言うべきか。
何かを得れば、
何かを失う、とは、
よく言ったものだが。
「もう一回貧乏すればまた絵がよくなるだろうか?」
そんなふうに考えることもしばしばだった。
その後、
紆余曲折いろいろあって、
最終的に私は絵描きを辞めることにした。
今現在は、
詩と小説を書いている。
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