2023年9月5日火曜日

絵描き時代のエッセンス

絵描き時代のエッセンス

 

 

私はかつて売れない絵描きだった。

絵を愛し、

絵を描くことに日々できるだけエネルギーと時間を注ぎたくて、

それでギリギリ食べていける最低限だけしかお金を稼がず、

いつも極貧の中での画業だった。

 

それからしばらくして、

絵が売れ始めたというわけではないのだが、

ちょっとした意外な運が巡ってきて、

いくらか金銭的に余裕ができた。

 

しかし、

そうなってから描いた絵には、

もはや貧乏苦闘時代の絵がもつ八方破れな美しさや刺激、危うい魅力、奇跡のバランスは存在せず、

炭酸の抜けたソーダのようなものになってしまっていた。

魂を欠いたヌケガラのような絵とでも言うべきか。

 

何かを得れば、

何かを失う、とは、

よく言ったものだが。

 

「もう一回貧乏すればまた絵がよくなるだろうか?」

そんなふうに考えることもしばしばだった。

 

その後、

紆余曲折いろいろあって、

最終的に私は絵描きを辞めることにした。

 

今現在は、

詩と小説を書いている。



0 件のコメント:

コメントを投稿